『風をください』~『愛してよろしいですか』の続編以上の面白さ

『風をください』。

この作品は田辺聖子先生の名作『愛してよろしいですか?』の続編として書かれた作品です。

 

風をください

★『風をください』文庫本表紙

 

前回の『愛してよろしいですか?』があまりにもファンに好評で、是非二人のその後を描いてほしいとの要望から出来た作品とのことです。

私も前作には深い思い入れがありましたので、その後の二人が読めるなど感激いたしました。

一般的に「続編」はがっかりするものも多いものですが、この『風をください』、読んでみると前作と比べても劣らぬ面白さで、とても満足のいく出来となっていました。

 

今作、主人公のすみれは、ちょっとずるい女になっています。

友達の勧めでお見合いをしてしまいます。

それも12歳年下の恋人ワタルに内緒で……。

 

お見合いの相手は伊豆さんという、なかなか魅力的な中年男性。

ずるいとは思うけれど年下の男性と、年上の男性の二人を天秤にかける女心は何となく理解してしまいます。

 

それというのも、ワタルを愛してはいるけれど、所詮自分は年上でハイミス。

彼は社会人になってまだ一年生で、会社内ではモテモテ。

 

しかし、やはり田辺聖子先生はただものではない、と思わせるのは、いずれ選ぶべき男性二人が顔を合わせるなど絶対に避けたい出来事ですが、それをあっけなく出会わせてしまうところにあります(笑)。

そうなると修羅場と化すのか!?と思うでしょうが、ここが田辺聖子ワールドのすごいところ。

ワタルとすみれが楽しく食事中に伊豆氏がカニ持参で訪ねてきます。

 

カニ

★伊豆氏がカニ持参で訪ねてきて…

 

すみれが対応しているときに、ワタルが、

 

どうぞご一緒に。

 

と招き入れてしまう。

そして、男二人すっかり気が合ってしまい、仲良くなるという意外な展開になっていきます。

 

普通、伊豆氏にしたら、

 

何で若い男を自宅に招き入れて夕食を食べてるんだ?

 

ワタルにしてみれば、

何で中年男性がわざわざカニを持ってたずねてくるんだ?

 

と疑問を持って当然なのに、全く二人とも気にせず、その後も仲良く遊びに行ったりするようになるのです。

 

しかも、ワタルの紹介で会社の先輩女子がそこへ入ります。

彼女はすみれより少し年下ながら、やはりハイミス。

ワタル目当てかと思えばそうではなく、伊豆氏に心ときめかせ、伊豆氏に振り向いてもらおうと努力する様子はなかなか可愛くもあり、魅力的なキャラです。

 

そして今回の見所はやはり、すみれと伊豆氏がお見合いしていた事実をワタルが知ってしまうくだりです。

お見合いを紹介した友達がすみれを訪ねてきて、伊豆氏との仲の進展をきいているのをワタルが聞いてしまいます。

 

マンションの玄関

★すみれと伊豆氏がお見合いしていたとワタルが聞いてしまい…

 

そこで彼のとった行動は……

 

「そうかあ、伊豆氏はお見合い相手だったのか。

話の合う中年だと思ってたが、スウが(ワタルだけが呼ぶすみれのあだ名)目当てだったんか」

 

と感心するような言葉を吐くだけ。

しかしその後、やはり気分を害してさっさと帰ってしまいます。

 

そのときのすみれの気持ちは、

 

ワタルを失うかと思った瞬間、彼が一層魅力的に見えた。

 

とありました。

 

この心理をここに持ってくるなど本当に先生はさすがな方です。

そうです、女性にとって男性が一番魅力的に見えるとき、それは彼が自分から去っていくときではないでしょうか。

これは女性の独占欲からくるものかもしれませんが、やはり愛情があるうちは失いたくない、そんな気持ちが激しく動きます。

 

最後にすみれが下す選択は、伊豆氏か?ワタルか?

それとも両方失うのか??

 

とにかく最後まで目が話せない物語に仕上がっていて、この『風をください』は『愛してよろしいですか?』の「続編」という以上に満足できる一冊です。