『朝ごはんぬき?』失って気づく“朝ごはん”という愛情

『朝ごはんぬき?』これも何度も読み直したお気に入りの作品です。

 

『朝ごはんぬき?』文庫版表紙

★『朝ごはんぬき?』文庫版表紙

主人公は明田マリコ、31歳のハイミスのお年頃、独身。

現在住み込みのお手伝いさんをしていて、これにはわけがあり、実は少し前までOLでしたが、失恋し、お相手の彼は同じ職場なため、会社を辞めたのです。

お世話になっている高校時代の教師の紹介で女流作家、秋本えりか先生の自宅に雇われることとなります。

 

主人公・明田マリ子、独身

★私は三十一歳、明田マリ子、独身である。

 

家族はえりか先生の夫と娘が一人、通いの家政婦さんもいて一見普通の家庭と変わりないのですが、そこはやはり作家の家。

自宅で仕事をして、締め切りになると編集部の人間が押しかけてきます。

 

えりか先生は神が降りてきてはじめて小説が書けるタイプで、普段は寝てばかりいて、そのおかげで締め切りまじかでないと原稿が仕上がらないやっかいな作家です。

えりか先生の夫は会社の重役で、グルメで食べ歩きが趣味、娘は両親を始め、大人には心開かないが、友達との間は良好。

この二人の共通点はえりか先生が忙しいので自由気ままに暮らせるところ。

 

マリコはお手伝い件秘書で、先生の仕事も管理するのでなかなか大変なお仕事なのです。

しかしお手伝いが主な仕事なので、食事を作る風景がこの本ではよく見られます。

 

マリコは朝食をしっかりとる人なので、かりかりベーコンに目玉焼き、トーストにミルクコーヒーに果物を用意して食べます。

けど、この家では朝はほとんど朝食を取らない。

そのうちマリコも影響され、優雅な朝食を取らなくなっていくのですが。

 

この朝食がこの物語には重要で、失恋の相手森夫と偶然再会しますが、彼と付き合っていた頃、きちんとした朝ごはんを作ってあげていました。

そのことが彼には大切な思い出となり、結婚した後でもマリコへの想いを引きずってるらしいのです。

 

★「いまでも、マリちゃんの朝めし思い出すよ」

★「いまでも、マリちゃんの朝めし思い出すよ」

 

「いまでも、マリちゃんの朝めし思い出すよ」

 

「僕より早よう起きてくれた、というだけで思い出すとたまらんようになるときあるなあ、世間には女は多いけど、そんなこと他の誰がしてくれたか」

 

「マリちゃんはほんまに僕が好きやってんなあ」

 

朝食

 

これを言われたマリコの気持ちは結婚した後に言われても腹が立つだけ、の心境ですが、やはり心は大きく動くのです。

彼を好きだからこそ、せっせと朝ごはんを作ってあげていたことが、彼にはこんなに大きく心に残る出来事となっていた。

それを素直に男性から言われたとしたら女性としては堪らなくうれしく心乱れます。

 

たかが朝ごはんを愛の言葉に変えて相手に伝えるなど誰が思いつくのでしょう。

ここが田辺聖子先生のすごさです。

当たり前に作ってくれていた朝食作り、そのときは何とも思わず食べていた、しかしそれは愛情があってこその行為だったと失って初めて気が付いた。

 

しかも、朝食を作っていた当の本人マリコもその重要性に気が付かなかったのに、森夫は気が付いてくれたことに深い意味があるのです。

 

これは最強のくどき文句です!

 

もちろん朝ごはん以外にも美味しそうな食べ物が満載に出てくるこの『朝ごはんぬき?』を読むと、どうもお腹が空いてしまい、本片手にお菓子をつまみながらの読書になってしまいます。

これも田辺聖子先生の作品の魅力です。

が、ダイエット中の方にはおすすめしないほうがいいかもしれません(笑)。

 

『朝ごはんぬき?』文庫版裏表紙

★『朝ごはんぬき?』文庫版裏表紙