『風をください』~『愛してよろしいですか』の続編以上の面白さ

『風をください』。

この作品は田辺聖子先生の名作『愛してよろしいですか?』の続編として書かれた作品です。

 

風をください

 

前回の『愛してよろしいですか?』があまりにもファンに好評で、是非二人のその後を描いてほしいとの要望から出来た作品とのことです。

私も前作には深い思い入れがありましたので、その後の二人が読めるなど感激いたしました。

一般的に「続編」はがっかりするものも多いものですが、この『風をください』、読んでみると前作と比べても劣らぬ面白さで、とても満足のいく出来となっていました。

 

今作、主人公のすみれは、ちょっとずるい女になっています。

友達の勧めでお見合いをしてしまいます。

それも12歳年下の恋人ワタルに内緒で……。

 

お見合いの相手は伊豆さんという、なかなか魅力的な中年男性。

ずるいとは思うけれど年下の男性と、年上の男性の二人を天秤にかける女心は何となく理解してしまいます。

 

それというのも、ワタルを愛してはいるけれど、所詮自分は年上でハイミス。

彼は社会人になってまだ一年生で、会社内ではモテモテ。

 

しかし、やはり田辺聖子先生はただものではない、と思わせるのは、いずれ選ぶべき男性二人が顔を合わせるなど絶対に避けたい出来事ですが、それをあっけなく出会わせてしまうところにあります(笑)。

そうなると修羅場と化すのか!?と思うでしょうが、ここが田辺聖子ワールドのすごいところ。

ワタルとすみれが楽しく食事中に伊豆氏がカニ持参で訪ねてきます。

 

カニ

 

すみれが対応しているときに、ワタルが、

 

どうぞご一緒に。

 

と招き入れてしまう。

そして、男二人すっかり気が合ってしまい、仲良くなるという意外な展開になっていきます。

 

普通、伊豆氏にしたら、

 

何で若い男を自宅に招き入れて夕食を食べてるんだ?

 

ワタルにしてみれば、

何で中年男性がわざわざカニを持ってたずねてくるんだ?

 

と疑問を持って当然なのに、全く二人とも気にせず、その後も仲良く遊びに行ったりするようになるのです。

 

しかも、ワタルの紹介で会社の先輩女子がそこへ入ります。

彼女はすみれより少し年下ながら、やはりハイミス。

ワタル目当てかと思えばそうではなく、伊豆氏に心ときめかせ、伊豆氏に振り向いてもらおうと努力する様子はなかなか可愛くもあり、魅力的なキャラです。

 

そして今回の見所はやはり、すみれと伊豆氏がお見合いしていた事実をワタルが知ってしまうくだりです。

お見合いを紹介した友達がすみれを訪ねてきて、伊豆氏との仲の進展をきいているのをワタルが聞いてしまいます。

 

マンションの玄関

 

そこで彼のとった行動は……

 

「そうかあ、伊豆氏はお見合い相手だったのか。

話の合う中年だと思ってたが、スウが(ワタルだけが呼ぶすみれのあだ名)目当てだったんか」

 

と感心するような言葉を吐くだけ。

しかしその後、やはり気分を害してさっさと帰ってしまいます。

 

そのときのすみれの気持ちは、

 

ワタルを失うかと思った瞬間、彼が一層魅力的に見えた。

 

とありました。

 

この心理をここに持ってくるなど本当に先生はさすがな方です。

そうです、女性にとって男性が一番魅力的に見えるとき、それは彼が自分から去っていくときではないでしょうか。

これは女性の独占欲からくるものかもしれませんが、やはり愛情があるうちは失いたくない、そんな気持ちが激しく動きます。

 

最後にすみれが下す選択は、伊豆氏か?ワタルか?

それとも両方失うのか??

 

とにかく最後まで目が話せない物語に仕上がっていて、この『風をください』は『愛してよろしいですか?』の「続編」という以上に満足できる一冊です。

『愛してよろしいですか?』は一番好きな作品かもしれません!

『愛してよろしいですか?』。

『愛してよろしいですか?』

★『愛してよろしいですか?』

 

田辺聖子先生の作品でお気に入りは数々ありますが、『愛してよろしいですか?』はもしかして一番好きかもしれない作品です。

こちらの作品は単行本、文庫本ももちろんありますが、『田辺聖子全集』の11巻に所収されています。

 

『田辺聖子全集』第11巻

★『田辺聖子全集』第11巻

 

『田辺聖子全集』の11巻の口絵には、「愛してよろしいですか?」の歴史が満載で楽しめます。

まずは「愛してよろしいですか?」連載時の「週刊明星」誌面。

記念すべき連載第一回目の画像です。

 

『愛してよろしいですか』連載時の「週刊明星」誌面

★「愛してよろしいですか?」連載時の「週刊明星」誌面

 

続いて『愛してよろしいですか?』装丁の歴史。

 

『愛してよろしいですか』装丁の変遷

★『愛してよろしいですか』装丁の変遷

 

そしてなんと、NHK銀河テレビ小説「愛してよろしいですか」、ドラマです!

 

NHK銀河テレビ小説「愛してよろしいですか」

★NHK銀河テレビ小説「愛してよろしいですか」

 

これは見たいです…。どうにかして見れないのでしょうか?

「愛してよろしいですか」は1984年5月7日~6月1日放送、脚本:北村篤子。
出演:三林京子、時任三郎、岸部一徳、山田スミ子、山城新伍(出典:Wikipediaより)

NHK銀河テレビ小説では、田辺聖子先生原作のドラマをいくつか放送していたみたいですね。

 


さて、作品の話に戻りましょう。

この作品にであったときは、もう既に田辺聖子ワールドにはまった後ではありましたが、それでもこの「愛してよろしいですか?」を読んだ後、さらに先生のすごさに脱帽しました。

 

田辺聖子先生『愛してよろしいですか』扉

★田辺聖子先生『愛してよろしいですか?』扉

 

それというのも、お話の内容が、34歳のハイミスすみれが12歳年下の大学生ワタルに恋をするという、現在ではありうる話ですが、この本が発表された年代では、聞いたことが無い年の差恋愛でした。

男側が12歳年下など、ずいぶん思い切ったなあ、そんなの成立するの?と不安になりつつ読み進めてみると、最初の不安は何処へやら。

ストーリーの面白さにはまる、はまる、あっという間に終わってしまいました。

12歳年下男性との恋なのに、やけに明るい展開で見ているこちら側まで楽しくなる、そんなお話でした。

 

ストーリーは、イタリアでの旅先で知り合った男の子と話が合い、旅先でデートしたことがきっかけで、日本に帰った後も会い続け、恋愛に発展していきます。

何故それがこんなに良いと思えるのか、というと、年下の彼氏ワタルが非常に魅力的な男の子なのです。

 

イタリア

 

若い分、物怖じせず、ハイミスのすみれに話しかけてきて、イタリアでデートした後でも会いたくなれば、すぐに電話して誘ってくる。

しかも、明るくて優しい。

すみれの会社での愚痴でさえも、興味深く聞いてくれて、

 

「スウちゃんは偉い、頑張ってる」

 

と励ましてもくれる、女性が一緒にいて癒されるタイプの男の子だったのです。

 

主人公すみれは、12歳も年下なんだから、その場の付き合いでまさか恋愛感情が起こるなど思いもしなかったのですが、ワタルの魅力にどんどん惹かれて行きます。

けど自分はもう34歳。

彼からしたらしっかりオバサンなんだから、本気になっちゃいけない……そんなすみれの心の葛藤が読む人に共感を与えます。

 

こんなすみれの心がわかりすぎるほどわかるシーンが、ワタルと美術館へ行ったとき。

あまりの満員にワタルと離れ離れになってしまい、ようやく外に出てみれば、ワタルが他の女の子と話をしていました。

 

白いワンピースの女性

 

白いワンピースを着たその女の子は、ワタルと並んでいてとてもお似合いのカップルにすみれには見えてしまったのです。

自分には無い若さを持った二人を見て、いかにすみれがショックなのかが、手に取るようにわかる名シーンです。

 

それでもワタルは、

 

なんでかなあ、僕あんたといると他の女の子といるより楽しいねん。

 

と言ってくれる。

これって、最強のくどき文句じゃないですか!?

 

そしていよいよワタルと結ばれる時。

すみれは、

 

私はあの白いワンピースの少女と同じ年頃の気持ちになった。

 

と心の中で語ります。そこにも深く共感できますね。

 

物語は現実を描いていながら、実にロマンチック。

 

お金持ちでハンサムな紳士ではないけど、若くて優しく性格も良く、たまに男らしい一面も見せてくれる最高の男性像を先生はこの作品で見せてくれました。

田辺聖子先生の描く男性で多分一番人気がこの『愛してよろしいですか』のワタルであることは間違いないです!

ぜひ読んでみてください!!

 

『田辺聖子全集』第11巻の月報

★『田辺聖子全集』第11巻の月報

 

ちなみに、『田辺聖子全集』第11巻の月報は川上弘美さんと酒井順子さん。

こちらも必読です!

ちなみに、管理人は蔵書がたくさんあります。このホームページを見に来てくださった方も本好きでたくさんの書籍をお持ちと思います。

ですが、意外とかさばるんですよね。

背表紙が焼けないような書斎があればいいのですが、そんな広い家というのも難しいところ。

そこでおすすめなのがトランクルームでの書籍の保管です。

本棚ひとつ分くらいから、収納スペースをレンタルできるのでほんとうに便利です。

さらには、トランクルームは、家の建て替えや海外赴任などの引っ越しでも活用できます。

 
引越しの預かりオプション。荷物をトランクルームに一時保管!

 

【外部リンク】引っ越し荷物の預かり http://www.xn--u8jxa8mz64p9s9b4gn.com/

こちらは管理人が、自分の長期旅行の際に家財をトランクルームに預けた経験を元に作ったホームページです。

恥ずかしながら記事をまとめましたので、書籍の保管場所や引っ越しでの一時預かりなどの場所を探している人は参考にしてみてください。

『舞え舞え蝸牛―新・落窪物語』~日本のシンデレラストーリー

「舞え舞え蝸牛、またの名を落窪姫」という平安時代を舞台にした物語をご存知でしょうか?

この作品は、あの有名な源氏物語よりも以前に書かれていて、あまりに古いため作者不明です。

その内容は、和製シンデレラストーリーで、実に女性が憧れるようなお話なのです。

私は原作は読んだことはありません、田辺聖子先生が書き下ろしたものだけです。

作品名は『舞え舞え蝸牛―新・落窪物語』です。

 

田辺聖子先生『舞え舞え蝸牛―新・落窪物語』単行本

★田辺聖子先生『舞え舞え蝸牛―新・落窪物語』単行本

 

人づてに聞くと、絶対そのほうが読みやすく面白い、といわれました。

読んでみてそれは私も思いました。

だって先生の描いた落窪姫は、非常に田辺聖子ワールドを感じさせる世界であったからです。

 

そもそも平安時代の貴族の結婚といえば、通い婚で、男性は複数の妻を娶ってもかまわない。

夫が妻を気に入らなくなれば、通うのを辞め、疎遠になっても仕方ない、男性に有利な条件でした。

 

けれど、先生の描いた落窪姫の世界は、主役の落窪姫以外は、侍女の阿漕、継母の北の方など強くて、夫を上手く操縦するやり手ばかりが登場します。

華やかな貴族社会を描いていながら、先生特有の笑いと人情が何処かしら感じられ、しかもそれはピースにピッタリとはまった魅力的な小説に仕上がりました。

 

『舞え舞え蝸牛―新・落窪物語』文庫本

★『舞え舞え蝸牛―新・落窪物語』文庫本

 

落窪姫は、美しく優しく育ちながら、実の母親が早くに亡くなったばかりに継子の北の方にいじめ暮らしていました。

しかし侍女の阿漕が落窪姫の味方となり、ついには飛ぶ鳥も落とす勢いの人気の公達、右近衛少将を落窪姫の夫にさせるのです。

 

最初は右近衛少将は、気まぐれに落窪姫を一晩盗めば良い、くらいに思っていましたが、姫の美しさと可憐さに胸打たれ、本物の恋をしてしまいます。

プレーボーイの名を返上し、姫をただ一人の妻にし、愛していく決意をします。

 

阿漕の思惑通り、落窪姫と右近衛少将は愛し合い、これで上手くいくかと思えば、それを知った北の方が二人を引き離す計画を画策します。

これって平安時代のシンデレラ、またはロミオとジュリエットのようで、女性が夢中になるエッセンスだらけなんです。

 

『舞え舞え蝸牛』は何度も読み直していますが、いまだに飽きない作品です。

世間では『源氏物語』のほうがずっと有名ですが、ストーリーとしてはこちらのほうがずっと面白いです。

だって源氏物語は、主役、光源氏は義理の母親藤壺の宮を愛し、その面影を持った女人を妻にしていったり、それ以外の女人も愛人にしたりと、真面目に描いていますがかなり多情な男性。

藤壺の宮に似ていて妻にした紫の上を一番愛していたと最後に気づいたけれど、彼女は先に亡くなっていき、その後彼のプレーボーイぶりはなりを潜め、寺にこもって最後を閉じるまでの話でした。

 

初恋の女性面影を追って愛する人を求めていくとは聞こえが良いですが、早くいえば浮気ものなだけ。

女性に人気の『源氏物語』ですが、ここに疑問を持つ女性も一杯います。

 

『源氏物語』は実に男性中心な考えだとしたら、『落窪物語』は実に女性中心な考えの物語。

だから私は女性中心な『落窪物語』、またの名を『舞え舞え蝸牛』が好きなのです。

 

角川文庫『おちくぼ姫』

★角川文庫『おちくぼ姫』

 

大人には『舞え舞え蝸牛―新・落窪物語』がおすすめですが、小中学生の入門には角川文庫から出ているかわいらしい装丁の『おちくぼ姫』がおすすめ。

古典に特に興味がないという方もきっと楽しめるおすすめの作品です。

『三十すぎのぼたん雪』所収の「ちびんこにへらんこ」

田辺聖子先生の作品で『三十すぎのぼたん雪』という短編集があります。
30過ぎたボタン雪

 

その中の一遍「ちびんこにへらんこ」。

変なタイトルをつけるのが好きな先生ならではのタイトルの短編作品です。

 

『三十すぎのぼたん雪』目次

★『三十すぎのぼたん雪』目次

 

田辺聖子先生の作品の多くは女性が主役ですが、この作品は珍しく男性が主役です。

舞台は田舎の村で、これも都会を舞台に選ぶ先生には珍しく、おまけに戦後間もなくの頃を描いている、珍しいばかりが目立つ作品です。

 

『三十すぎのぼたん雪』所収「ちびんこにへらんこ」

★『三十すぎのぼたん雪』所収「ちびんこにへらんこ」

 

この「ちびんこにへらんこ」、珍しいのはストーリーもそうです。

田舎の村といえば、性についてはお堅いイメージですが、それは見た目だけのこと。

実際は、男女の付き合いはお盛んで、初体験も早いといいます。

周りの大人も注意はしますが、恋する男女を遠巻きで応援する風潮も田舎ではよくあることです。

 

このお話に出てくる村もそんな風潮が残っていて、しかも時代は、戦後間もなくといったところでした。

戦後といえば、戦争によって大勢の男性が兵隊さんに取られて、返らぬ人となり、日本国内では後家さんを含め、独身の女性だらけになった時代です。

そこで数少ない独身の男性でこのお話の主役である春川さんは、夫がいない後家さんを慰問するという名目で複数の後家さんと男女の関係を持っていました。

 

農村

 

そう聞くと、かなり問題な話に聞こえますが、どういうわけか、このお話に出てくる村人は、男女の色事には皆、寛容なのです。

それどころか村の若い男性達は、春川さんの慰問を応援する空気まである流れで、それも複数の後家さんと仲良くできる春川さんをうらやましいと思ってるからなのですが。

 

しかし、こんなことが出来るのは、春川さんが見た目もいい男で、稼ぎもあり、奥さんも数年前に亡くしたから独身、ということが大きい理由です。

 

それでも浮気願望のある男性達は、春川さんのところへ集まり、慰問団に入団したいと願います。

 

このお話の面白いところは、慰問団に入るにはいくつかの要素が必要だといわれます。

まず、まめであること。

慰問団とはただ、いきなり男女の仲になるのではなく、後家さんであるから男手が必要な仕事は五万とあります。

それを腰軽く手伝ってあげる。

慰問団は親切かつ優しいというのが春川さんの言い分です。

 

次に歌が上手いこと。

それもテレビで聞く歌謡曲などではなく、婚礼の席で歌われる「長持歌」とかが良いといいます。

 

春川サンが「長持歌」を歌う場面

★春川サンが「長持歌」を歌う場面

 

人生の大事な席で歌われる歌を朗々と歌い上げる男性とは、その席にいる全ての人に支持され、女性はウットリとなる唯一の方法らしいのです。

 

また、お相手の女性が噂を立てられぬように落ち合うときは偶然を装うか、出来るだけ遠くで待ち合わせするかにしろ、と指示します。

独身の春川さんはともかく、教えを請うているのは配偶者がいる男性なので、いささか不安を感じながら読み進めていくのですが、このお話にはそういった野暮な邪魔は一切入らず、男性の浮気の理想的な形を描いていくのです。

 

しかし、このお話が悪くない、と思わせるのは、お相手の後家さんが若く美しい女性というわけではなく、むしろ、70歳のお婆さんも含まれているところです。

年齢が高くなってもそれなりの魅力は増す、と思ってくれる男性だと、女性は絶対好意を持ってしまいます。

これも田辺聖子先生ならではの心眼でした。

『孤独な夜のココア』所収の一遍を選ぶとしたら「おそすぎますか」

田辺聖子先生の『孤独な夜のココア』。

 

田辺聖子先生『孤独な夜のココア』単行本と文庫本

★田辺聖子先生『孤独な夜のココア』単行本と文庫本

 

この本は短編集でいくつもの物語が入っているけれど、その中で特に胸に染み入る一遍を選ぶとしたら「おそすぎますか?」でしょうか。

 

『孤独な夜のココア』所収「おそすぎますか」

★『孤独な夜のココア』所収「おそすぎますか」

 

田辺聖子コレクションでは表題にもなっている作品です。

 

田辺聖子コレクション『おそすぎますか?』

★田辺聖子コレクション『おそすぎますか?』

 

主人公の女性は仕事が大好きでいつも忙しい日々を送っている。

そんなある日、彼氏が出来ます。

彼氏は忙しい主人公を癒してくれる理想の男性でした。

 

いつも忙しそうにしている主人公に、

 

「しんどかったか」

 

と優しく言葉をかけてくれる。
彼女は、

 

「うん、しんどかった!」

 

と甘えて言う、そんな関係だった。

 

そんな彼氏を独占したくて結婚を決めますが、彼女の上司は、

 

「あんたみたいな仕事が出来る人が結婚するなんて勿体無い!」

 

それに対して彼女は、

 

「結婚しても仕事は続けます!」

 

と言い切ります。

 

「当たり前や!仕事に反対するやつならさっさと離婚してしまえ!」

 

と彼女の結婚をにがにがしく思う上司。

 

結婚式直前まで仕事に追われ、ようやく隣に座った彼女に彼はやはりこう言います。

 

「しんどかったか」

 

その言葉に彼女は満足しながら、

 

「うん!」

 

と言うのです。

 

けど恋愛と結婚は違います。

恋愛時代は一時を楽しむだけでも成り立ちますが、結婚は毎日同じ家で暮らし、共に食べ、共に眠り、苦楽を分かち合うもの。

彼女は結婚した後も仕事中心の生活で、いつしか彼は不満を覚えていきます。

 

彼女が彼に手を抜いたわけではありません。

少しでも暇が出来れば彼のために手間隙かけた食事を作り、彼のセーターなど編んだりもして甲斐甲斐しくやっていた場面もあるのです。

 

編み物

 

それなら何故?と思うでしょうけれど、田辺聖子先生は男性を鋭く理解されていました。

 

男という生き物は、出来るときに深く愛情をかけたから、忙しくなっても大丈夫などというものではなく、ほうっておくと駄目になる。

非常に寂しがりやな生き物なのだと啓示されたのです。

 

どんなに優しい男性でも、毎日愛情をかけていないと彼の心はすさみ、やがて離れていく。

そして主人公の夫も例外ではなく、我慢の限界が来るのです。

 

このお話の問題は、彼女が彼と同じくらい仕事が好きなことでした。

 

オフィス街

 

仕事と彼のどちらを選ぶか、働く女性なら絶対に選択できない問題です。

仕事は生きがい、彼は愛し癒してくれる存在、これは現在でも十分ありうる働く女性の悩みです。

 

でも、読者としては、彼の寂しさも理解できてしまい、どちらの言い分も間違っていないのです。

答えの出ないまま二人は心が離れてしまい、彼女が最後に取る選択は? となるわけですが……。

 

このお話を読んだときは、心が痛くなる、そんな思いがしました。

 

タイトルの「おそすぎますか」は主人公の心の声です。

私は本当に貴方が好きなのに、わからなかったの?もうおそすぎますか?と夫への未練の声です。

 

短い短編でありながら、読者の心をこんなに締め付けるストーリーは「おそすぎますか」以来お目にかかったことがありません。

『孤独な夜のココア』は特におすすめの一冊です。

 

『孤独な夜のココア』解説

★『孤独な夜のココア』文庫版解説は綿矢りささん

『お目にかかれて満足です』モラスハラスメントな夫を愛する作品

田辺聖子さんの小説は基本的に一冊の文庫本読みきりくらいの内容が多いのですが、この『お目にかかれて満足です』は上巻、下巻の長さでした。

『お目にかかれて満足です』のお話、主人公は33歳になる主婦のるみ子。

 

『お目にかかれて満足です』単行本表紙

★『お目にかかれて満足です』単行本表紙

 

物語の最初では、結婚して家庭に入り、家事の合間に「るみ子ブランド」のセーターを編む。

それを友人のお店で販売してもらっている、子供はいなくて気が合う夫、洋と楽しく仲良く暮らしている。

最初の出だしはとてもお手軽な楽しい人生を送る主婦です。

 

『お目にかかれて満足です』扉

★『お目にかかれて満足です』扉

 

しかし、人生はそんな言い事づくめではありません。

 

るみ子の実家の家族も医者だけど、夫・洋の実家も医者ばかり。

るみ子が実家に戻るのは自分の家だからまだ気楽だが、洋の実家に行くときはひどく緊張するほど格式ばった家だった。

まだお姑さんも元気だし、洋のお兄さんがまた厳しい人。

 

応接間

 

でも、洋の弟、舷だけは親しみやすかった。

 

夫・洋と弟・舷は同じく医者にならなかった同士。

仲が良く、結婚した後も家にたびたび遊びに来るほどでした。

 

そんなある日、夫・洋の借金が発覚。

貯金も使い込み、実家にまで借金していたのがわかり、るみ子の生活は一変します。

 

一万円札

 

かといって食べていけないというわけではありません。

ただ今までやりやすい男だと思っていた夫・洋は、実はそう簡単な男ではなかったことが徐々にわかっていくのです。

 

洋に借金したことを問い詰めると、次第に逆切れし始め、

 

「お前は物の役にたたない半人前のくせに人を攻撃するときだけ一人前の口を利く」

 

「人にきつうて自分にだけ甘い、やりたい放題、いいたい放題」

 

とまさに今でいうとモラルハラスメントな男でした。

 

るみ子は、

 

「そうかなあ、あたしは洋が喜ぶよういつも美味しい料理を作るよう心がけている。
母親のように甘やかしているつもりだった」

 

と激しいショックを受けます。

 

その後も洋は心臓の鼓動が激しいとか言って、るみ子に看護させたり甘えきっている夫です。

それでもるみ子は洋に捨てられたくないし、一緒にいたい、そんな夫婦仲です。

 

るみ子の生き方は洋が中心で、彼がいなくてはつまらない人生になってしまう。

そのことは変らないのですが、それまでの彼に頼って生きる人生は逆転します。

 

友人のすすめで自宅を改装し、お店を経営することにします。

自分の作ったセーターや小物を扱うお店です。

それは思ったより上手くいき、少しずつではありますが、売り上げも伸びていきました。

 

セーター

 

でも、その自宅改造の資金の出所は洋の弟、舷からです。

るみ子と舷は洋に内緒で秘密を持ったわけです。

そして以前より密な関係になっていきます。

しかし、何処か影を持った舷にるみ子は心引かれながらも、決して分かり合えない部分も理解していきます。

 

女性がお店や会社を起こすとなれば、家のことも夫の世話も手抜きは出来ない。

そんな悩みや、夫を愛していながらも他の男性に心惹かれる女性特有の浮気心も描いていきます。

 

一般主婦がお店を経営し、やりにくい夫を何とか操縦し、うるさい夫の実家と付き合い、 夫の弟と危うい関係を持つ……というかなり内容の濃いいお話。

お話としては上巻、下巻にしなくても終われたんでは?とはじめは少し疑問でしたが、二冊分でなければ描ききれない、と田辺聖子先生としては判断したのかな、と想像しています。

『朝ごはんぬき?』失って気づく“朝ごはん”という愛情

『朝ごはんぬき?』これも何度も読み直したお気に入りの作品です。

 

『朝ごはんぬき?』文庫版表紙

★『朝ごはんぬき?』文庫版表紙

主人公は明田マリコ、31歳のハイミスのお年頃、独身。

現在住み込みのお手伝いさんをしていて、これにはわけがあり、実は少し前までOLでしたが、失恋し、お相手の彼は同じ職場なため、会社を辞めたのです。

お世話になっている高校時代の教師の紹介で女流作家、秋本えりか先生の自宅に雇われることとなります。

 

主人公・明田マリ子、独身

★私は三十一歳、明田マリ子、独身である。

 

家族はえりか先生の夫と娘が一人、通いの家政婦さんもいて一見普通の家庭と変わりないのですが、そこはやはり作家の家。

自宅で仕事をして、締め切りになると編集部の人間が押しかけてきます。

 

えりか先生は神が降りてきてはじめて小説が書けるタイプで、普段は寝てばかりいて、そのおかげで締め切りまじかでないと原稿が仕上がらないやっかいな作家です。

えりか先生の夫は会社の重役で、グルメで食べ歩きが趣味、娘は両親を始め、大人には心開かないが、友達との間は良好。

この二人の共通点はえりか先生が忙しいので自由気ままに暮らせるところ。

 

マリコはお手伝い件秘書で、先生の仕事も管理するのでなかなか大変なお仕事なのです。

しかしお手伝いが主な仕事なので、食事を作る風景がこの本ではよく見られます。

 

マリコは朝食をしっかりとる人なので、かりかりベーコンに目玉焼き、トーストにミルクコーヒーに果物を用意して食べます。

けど、この家では朝はほとんど朝食を取らない。

そのうちマリコも影響され、優雅な朝食を取らなくなっていくのですが。

 

この朝食がこの物語には重要で、失恋の相手森夫と偶然再会しますが、彼と付き合っていた頃、きちんとした朝ごはんを作ってあげていました。

そのことが彼には大切な思い出となり、結婚した後でもマリコへの想いを引きずってるらしいのです。

 

★「いまでも、マリちゃんの朝めし思い出すよ」

★「いまでも、マリちゃんの朝めし思い出すよ」

 

「いまでも、マリちゃんの朝めし思い出すよ」

 

「僕より早よう起きてくれた、というだけで思い出すとたまらんようになるときあるなあ、世間には女は多いけど、そんなこと他の誰がしてくれたか」

 

「マリちゃんはほんまに僕が好きやってんなあ」

 

朝食

 

これを言われたマリコの気持ちは結婚した後に言われても腹が立つだけ、の心境ですが、やはり心は大きく動くのです。

彼を好きだからこそ、せっせと朝ごはんを作ってあげていたことが、彼にはこんなに大きく心に残る出来事となっていた。

それを素直に男性から言われたとしたら女性としては堪らなくうれしく心乱れます。

 

たかが朝ごはんを愛の言葉に変えて相手に伝えるなど誰が思いつくのでしょう。

ここが田辺聖子先生のすごさです。

当たり前に作ってくれていた朝食作り、そのときは何とも思わず食べていた、しかしそれは愛情があってこその行為だったと失って初めて気が付いた。

 

しかも、朝食を作っていた当の本人マリコもその重要性に気が付かなかったのに、森夫は気が付いてくれたことに深い意味があるのです。

 

これは最強のくどき文句です!

 

もちろん朝ごはん以外にも美味しそうな食べ物が満載に出てくるこの『朝ごはんぬき?』を読むと、どうもお腹が空いてしまい、本片手にお菓子をつまみながらの読書になってしまいます。

これも田辺聖子先生の作品の魅力です。

が、ダイエット中の方にはおすすめしないほうがいいかもしれません(笑)。

 

『朝ごはんぬき?』文庫版裏表紙

★『朝ごはんぬき?』文庫版裏表紙

 

 

『恋にあっぷあっぷ』―多情な主婦の恋物語

『恋にあっぷあっぷ』とは田辺聖子先生らしい、変なタイトルの小説です。

いったいどのような内容なんだろう、と興味を持ち読んでみた作品です。

 

恋にあっぷっぷ

★『恋にあっぷあっぷ』林静一さんの素敵な挿画

 

主人公はアキラというまるで男性のような名前の主婦。

 

アキラ

★『恋にあっぷあっぷ』目次

 

アキラは普通に結婚して子供はまだいないが、パートにも出て一軒屋で暮らす全く普通の主婦だった。

それがある日、お隣に自分達と年齢が近い夫婦が引越してきて事態は変った。

夫ヒロシは隣の奥さんと仲良くなり、アキラは隣の旦那に魅力を感じる。

それなら、夫婦で浮気に発展するのか、というとそうではなく、ヒロシの場合は相談相手になっただけ。

問題はアキラのほうで、隣の旦那ジツに惹かれていく。

 

そんなある日、隣の奥さんに自分のパートの仕事が割に合わない、といわれたのがきっかけで、いきなりつまらなく感じるアキラ。

パートを辞め、華やかなR市にあるブティックジュリーに勤めだす。

 

実はそこからがアキラの恋が始まりなのです。

 

ブティックジュリーに勤めだしてからアキラはいきいきとして働きます。

それはR市というお金持ちが住む特別な場所に存在しているお店であったから、お客も高くとも一品だけ存在する品を好む贅沢で淫蕩な街にすっかり魅せられてしまったから。

 

ショップ入り口

 

そんなある日、若い女の子がドレスのお直しに来て、一緒にいた、太って見るからに醜い中年男性の鷹野氏と知り合います。

あまりのインパクトの強烈さに、興味が湧いて失礼だとは思いながらもついついまじまじと見つめてしまうアキラ。

自分の見た目の悪さを知ってる彼は、恥ずかしいそぶりを見せる、そんな出会いでした。

 

しかし、鷹野氏の見た目を補うばかりに細やかな他人への気配りと優しい紳士な態度に、いつしかアキラは隣の旦那ジツよりも鷹野氏に心惹かれていく――。

というような内容です。

 

私はアキラのような多情な女性は嫌です。

夫がいる身で、隣の旦那ジツに思いを寄せて、食事に誘って、ヒロシが留守だからといって自宅に招こうとする。

それを断られて今度はジツより鷹野氏に入れ込むなど、アキラは実に浮気性といえる人です。

 

そこはじっと我慢で読み進んでいくと、鷹野氏が見せるお金持ちの淫蕩さのある世界は実に魅力的でした。

ドレスアップしてパーティーに出て、競売で人気歌手とデュエットできる権利を高値で買い取ってくれたり、鷹野氏が所有する別荘に出かけ、レストランからの食事をデリバリーで楽しんだり。

 

シャンパン

 

そんな贅沢にアキラは夢中になっていきます。

 

そして鷹野氏といると自分は自然になれる、彼こそが運命の男性だ、と確信します。

鷹野氏もそんなアキラに惹かれ、二人は一緒になる願望を持ちます。

 

もうヒロシとは暮らせない、と離婚をほのめかして出て行くアキラ。

鷹野氏に連絡し、しかしお互いの離婚が決まるまでは合わないでおこう、と約束します。

 

「急に声が聞きたい、と言ってくれる人を見つけるために人はあくせく生きている、けど大抵の人はめぐり合わず死んでいく」

 

「あたしは見つけたのよ、そういう人を」

 

すごいです、こんな大人な愛の言葉が今まであったでしょうか。

 

最高のシチュエーションで再会を約束し、一旦別れる二人。

このまま幸福になるなら単なる甘いだけの話で終わってしまいますが、そこはさすがは恋愛の教祖の田辺聖子先生です。

 

夢はいつか醒めると非情な現実をちゃんと用意していたのです。

 

けれど、その現実があってこそ、私の中でこの作品が素晴らしく輝きはじめ、心に残る一品となったのです。

 

アキラの夢の物語はあくまで夢として存在しただけ。

永遠に留めたければ、美しい思い出だけを持って生きれば良い。

アキラはそう生きるのにふさわしい女性だったのでしょう。

 

『恋にあっぷあっぷ』、何ともいえず心に残るおすすめの一冊です。

初めて読んだ長編小説が田辺聖子先生の『窓を開けますか?』でした。

私が田辺聖子先生の小説を初めて眼にしたのは、小学校6年くらいでした。

 

当時の私の読み物は、漫画ばかりで、小説など眼中に無かったのですが、それでも大人になったら漫画は卒業して小説を読むものだと、何故か決め付けていたのです。

 

そのため、少しずつ小説を読む努力をするべきかな、と考え、姉の本箱の中から一冊拝借することにしました。

姉と私は4才違いなため、何冊かの小説を所持していました。

その何冊かの中に含まれていたのが田辺聖子先生の小説だったのです。

 

タイトルは『窓を開けますか?』。

 

窓を開けますか?

★田辺聖子先生『窓を開けますか?』単行本

 

何とも不可思議なタイトルで、当時の私は何の本か悩んだものです。

それでも、文字数が少なめで、難しい内容ではない様子なので、これを拝借することに決めました。

 

ストーリーは、30歳くらいのOL亜希子は現在不倫恋愛を楽しんで暮らしている。

最初は仕事もあり、同僚もあり、男友達もあり、不倫の恋人もありで人生を謳歌しまくっている女性でした。

けど途中から不倫相手と上手くいかなくなり、そこから不穏な空気に包まれて亜希子の迷走がはじまり人生を考え始めます。

不倫相手と別れて新しい人とやり直すのかと思われるお話の流れでしたが、最後に亜希子が下した決断は。・・・

 

物語のタイトルの

「窓を開けますか?」

これは亜希子が最後に選んだ男性にかけた言葉です。

これを言って物語は終わるのです。

 

窓を開けるとは、空気を入れ替える、風を通すため、太陽の光を直接浴びるため、いろんな意味を持ちます。

共通する目的は、部屋の何かをガラッと変化させる、そのためです。

この言葉は亜希子が彼との新しい関係を意味する、そんな予感をさせるためのキーワードとも言えるのです。

 

窓

 

さりげない普通の日常会話が田辺先生の手にかかれば、まるで魔法の言葉にように輝きます。

とても良い終わり方でした。

 

私個人の意見としては、亜希子は不倫をしているわけで、それも後ろめたく思ってる気配など微塵も無く、友達にも堂々と言ってのけるあたり好感が持てないヒロインでした。

それなのに、先生の人をひきつけてやまない文章力のおかげで、このように自分勝手な主人公の生き方でも途中で読むのを止めることが出来ず、とうとう最後まで読みきったのを覚えています。

 

それどころか、何度も読み直してしまうのです。

 

初めて小説を読んだのにも係わらず、田辺聖子ワールドの魅力にすっかり取り付かれてしまいました。

 

これ以降、姉の本棚にある田辺聖子先生の小説を読み漁りました。

 

先生の作品は基本一冊の本で完結するのが主流で、読みやすくもあり、どんな人にもおすすめすることができる珍しい作家さんだと思います。

 

中には短編集もあって、その中でもひきつけられる作品がいくつも登場し、こんなに感性が鋭い女流作家はめったにいないことを認識させられました。

田辺聖子先生の作品は、大阪を舞台にした等身大の恋愛小説

田辺聖子さんは、誰もが知っている有名作家さんです。

それもほとんど全てが恋愛小説。

 

恋愛小説と聞けば、ハーレクインロマンスのような、美しい女性が旅に出て、そこで出会ったステキな男性と恋に落ちる。

そのような女性が夢見るロマンチック満載の物語だと想像してしまいそうですが、田辺聖子さんの描く世界は全くそれとは違います。

彼女の描く世界は、等身大の恋愛物語でした。

 

★田辺聖子全集の口絵

★田辺聖子全集の口絵

 

それも舞台は東京よりも関西のそれも最も個性が強烈な大阪を舞台にした物語が中心とされます。

話す言葉も、大阪弁がほとんどで、それもそのはず、田辺聖子さんは生粋の大阪人です。

けれど、大阪の景色、大阪の言葉、人間関係も大阪風に描いて、それでいて恋愛小説を書いて大成するなど、大変めずらしいことでした。

 

多分ほとんどの読者は、田辺聖子さんの小説を良くあるロマンチックな恋愛小説だと思って読むと、驚かれると思います。

ほとんどが大阪の町並みや人情ある交流や美味しい食べ物の紹介、そういった街で主人公は生活している様をこれでもか、とばかりに克明に描いていく。

そこからが先生の世界の始まりです。

 

主人公にしても、決して特別美しい女性ではなく、年齢もハイミスだったりして、毎日会社と自宅の往復で、友達はいて、男友達もいるけれど、肝心の彼氏がいない。

そんな普通の女性の恋愛物語を描いていくのです。

 

恋愛のお相手に関しても、特別カッコいいわけでもなく、お金持ちなわけでもない、ロマンチックな言葉をかけてくれるわけでもない、ごく普通の男性。

ですから、女性が夢見る条件はほとんど無いともいえるお話ですが、それでも、いやそれだからこそ? 先生の作品は支持され続けているのです。

 

図書館の田辺聖子先生コーナー

★図書館の田辺聖子先生コーナー、著作がいっぱい

 

 

田辺聖子先生の作品が支持され続けている理由のひとつに、生の関西を描ききっているということがあるでしょう。

 

朝の通勤の忙しさから昼は会社で忙しく働き、噂話に興じる。

そして夕暮れには、家路を急ぐ人々がどのように生きているか?

まるで自分が物語の中に存在して、その世界に生きている……そんな気にさせてくれる作品です。

 

かく言う私も、そんな田辺聖子先生の作品に深く魅力を感じたものの一人です。

 

それは、私も大阪人だからでもあります。

 

大阪で生まれ、大阪で育つものには田辺聖子さんといえば、一番親しみを感じる女流作家なのです。

先生の描く大阪は人情と優しさが溢れていています。

普段見慣れている大阪の景色を彷彿とさせ、「そうか、大阪ってこんなにいい町だったんだ」と改めて再認識させてくれます。

 

大阪・道頓堀の風景

 

背伸びしない恋愛物語は、現実の厳しさと何処か悲しいお話の展開が待っています。

けれど、だからこそラストには何かしらの感動に向かっていけるのです。

 

以前、先生は「徹子の部屋」に出演なさったときにおっしゃいました。

 

「私の描いたかなり昔の小説、この子達がいまだに良いお仕事をしてくれるんですよ」
(昔の作品が今でも売れ続けているということ)

 

そのことを「何故なのでしょう?」と聞かれたとき、先生は言いました。

 

「今も昔も恋する心は変らないからでしょう」

 

この返答を聞いてやはり先生はただものではないな、と感服した次第です。

 

このブログでは、僭越ではありますが、大好きな田辺聖子先生のおすすめ作品を紹介していきたいと思います。